How we work with natural materials

天然繊維は合繊繊維に比べて優れているのか? 何が私たちを快適にしてくれるのでしょうか? 地球の環境にとってより良い繊維は? その天然素材について掘り下げてみましょう。

衣類に用いられる天然繊維には様々な種類があります。デニムに使われているコットン、ベースレイヤーのウール、イブニングドレスにはシルク、おばあちゃんの毛皮のコート。これらはすべて天然繊維とくくられますが、それぞれ全く異なる特徴を備えています。天然繊維は高機能素材としての可能性を秘めていますが、一方でデメリットもあります。持続可能な製造が可能ですが、その反面、環境にダメージを与えることもあります。ただ一つ言えるのは、天然繊維はすべて生分解性素材であるということです。

微生物の働きで分解され堆肥へと変わるHoudiniの天然繊維生地。

Nature is circular

私たちは循環型の製品になるよう、プロダクトをデザインしています。これはつまり、リサイクルされた素材、もしくはリサイクル可能な合成繊維素材、あるいは生分解性の天然素材を使用するということです。天然繊維と合繊繊維を混ぜることはありません。混ぜてしまうとリサイクルすることも生分解することもできなくなってしまうからです。私たちが製品に使用する資源は地球から一時的に借りたものであり、私たちにはそれを良い状態で地球に返す責任があります。循環型デザインの基本理念は“何も無駄にしない”ということ。何百万年にもわたる進化の過程を経てきた天然素材には、包括的なリサイクルのシステムがすでにできあがっているのです。

天然繊維から作られた堆肥を使用し育てられた野菜。

The Houdini Menu

2016年、私たちは天然繊維の純度を測るための実験的なプロジェクトをスタートしました。まず、Houdiniの使い古したウール製ベースレイヤーをコンポストに入れます。次にベースレイヤーからできた堆肥を使って野菜を育て、その野菜を使った料理をレストランで提供するのです。使い古しの下着から、ファインダイニングでのグルメ体験へ。このプロジェクトの目的は循環型デザインの美しさを示すとともに、Houdiniの製品が実際に土に還り、かつ、良い土壌になることを実証することでした。このプロジェクトはHoudini Menuとしてショートムービーにまとめましたので、ぜひご覧ください。

The Houdini Menu

羊と森林は私たちに天然繊維による快適性をもたらしてくれる。

What materials are we using?

Houdiniではメリノウールとテンセル™ リヨセルという2つの天然繊維だけを使用しています。この2つの繊維は高い機能性とサステイナビリティ、どちらの側面でも多くのメリットがあるからです。

Merino wool: A fiber with magical qualities

メリノウールは魔法のような素材です。寒い冬には素晴らしい保温性能を発揮し、夏にはさらりとした肌触りを叶えてくれます。天然の抗菌作用があるのでイヤな匂いも防いでくれます。おまけに汗で濡れても身体を冷やしません。こうした機能を持つことからメリノウールはあらゆる機能性衣類に使われています。その品質は、北海の漁師から18世紀の探検家までのお墨付き。Houdiniではトレーサブルでノンミュールジング (飼育過程で仔羊の臀部や陰部の皮膚や肉を切除しない) のメリノウールだけを使用しています。

Tencel: Wear the forest

テンセル™リヨセルは、樹木や植物の天然化合物であるセルロースから作られた、滑らかで丈夫な再生繊維です。さらりとした涼感のある肌触りで、優れた通気性と吸湿性を発揮します。Houdiniではこのテンセル™をメリノウールとブレンドした生地も使用しています。ブレンドすることでウールに素敵なドレープが生まれたり、質感がしなやかになったり、また強度を高めることもできるからです。テンセル™の原料となる木材とパルプは、持続可能な方法で管理され、FSC認証 (森林認証制度) を受けたプランテーションから調達されます。製造プロセスで使われた水や化学薬品は再利用可能で、99%を超える回収率で循環利用されています。テンセル™ リヨセルはオーストラリアのレンチング社で生産され、EUエコラベルの認証を受けています。

着古した天然繊維の衣類を裁断しコンポストに。

Nature and technology are not enemies

Houdiniでは天然繊維を利用したプロダクトの比重が増えつつありますが、かといってテクノロジーに背を向けて「自然に還ろう」というつもりはありません。なぜなら、天然繊維は新しいテクノロジーがあってこそ進化を遂げるものだからです。軽量で高密度に織られたウールのシェルから、高い通気性と透湿性を誇るウーリーツリーメリノ™まで、開発されたウール生地は私たちがこれまでに見たこともないような新しい素材に見えます。そろそろウールやその他の天然繊維にまつわる間違った認識を改めなくてはなりません。

“天然繊維はテクノロジーによって進化し続ける”

Houdiniの衣類用コンポストを管理する庭師のニクラス。

Are natural fibers more sustainable?

では「天然繊維はサステイナブルなのか?」というとこれはとても難しい質問で、実はそうとも違うとも言い切れません。例えば合成繊維が混紡されていない天然繊維を考えてみましょう。これは生分解性素材なのでマイクロプラスチック汚染の原因にもプラスチック廃棄物にもならず、サステイナブルと言えるかもしれません。しかし気候変動、生産に用いられる大量の水や化学物質のこと、原料を生産する土地のために破壊される森林やそこで過剰に使われる堆肥、海洋酸性化、生物多様性などさまざまな環境問題の視点で考えると、天然繊維が真にサステイナブルであるかとは言い難くなってきます。さらに動物福祉や労働者の就労環境の問題までも含めると、完璧にサステイナブルな繊維を実現させることは、到底、不可能なことのように思えます。

天然繊維は合成繊維よりサステイナブルであるか。これはどの立場で物ごとを考えるかによって答えが変わってきます。しかし、原料の生産、製造、輸送、廃棄のすべてのプロセスにおいて繊維が環境にダメージを与えることは歴然たる事実です。私たちができるだけ長持ちするプロダクトを開発し、レンタルや不要品の回収・販売、リペアといった各種サービスを提供するのはこのためです。つまり原料が天然か合成かににかかわらず、資源の利用にはできるだけ慎重な姿勢が求められるのです。

“合成繊維との混紡がなく、有害な化学物質が使われていない天然繊維は自然に還すことができる”

End of life solutions

合成繊維と混紡されていないか、あるいは有害な化学物質で処理されていない限り、天然繊維は自然に還すことが可能です。ジッパーやコードといったパーツを取り除けば、Houdiniの天然繊維製の製品は堆肥にすることができます。自宅にコンポストがある場合、ウールの衣類を裁断してそれに入れれば、通常、6〜12ヶ月で土に分解されます。もちろん、堆肥にせずにリサイクルすることも可能で、堆肥にする前に他の用途に転用するケースがほとんどです。ただし、ウールはリサイクルする度に品質が低下してしまいます。

ストックホルムにあるHoudiniの衣類用コンポスト。

Rosendals garden and the world’s first clothing compost

2018年の秋、ストックホルムのHoudini本社の向かいにあるローゼンダル・ガーデンに、世界初(私たちが知る限りでは)の中古スポーツウエア専用コンポストが設置されました。これは言うなれば、私たちの天然繊維コレクションのためのテストラボ。自分たちが作った衣類がどのように花や野菜、果物を育む土に変わるのか、自分たちの目で見届けることが可能になりました。循環型デザイン(サーキュラーデザイン)を視覚的に表現し、かつおいしく味わおうというこのプロジェクトはローゼンダル・ガーデンとのパートナーシップにより実現したもので、サーキュラーデザインによってどのような未来を築けるのかを実証する一例になると考えています。

Naturals vs synthetics

さて、それでは冒頭の疑問に戻りましょう。天然繊維と合成繊維はどちらが優れていて、どの繊維がいちばん良いのか。もうお分かりでしょうが、すべての繊維にはそれぞれにメリットがあり、目的にかなったものを利用するのがベストだというのが私たちの答えです。一般的に、合成繊維は天然繊維よりも強度があり、必要な機能に合わせてデザインすることが可能です。天然繊維のように水を吸収しないため、防水機能を搭載した素材も容易に作れます。一方、ウールとテンセル™の混紡はそれとは異なる特徴を備えています。合成繊維が肌に合わないという人にとって、快適な肌触りを実現するこの混紡繊維はなくてはならないものです。一方、サステイナビリティという観点ではどちらの繊維も長所と短所を持っています。天然繊維は生分解性を備えていますが、合成繊維はそれよりも長持ちし、品質を落とさずにリサイクルすることが可能です。私たちは常にさまざまな視点を考慮し、適切な素材を選びます。そしてもちろん、個人の好みもあります。天然繊維が好きな人もいれば合成繊維を好む人もいるのですから。

The beauty of nature

要するに私たちは天然繊維が大好きだということです。パフォーマンスとサステイナビリティの問題は別として、他では得られない良さがあります。例えば肌触り、着心地。ゆっくりと、でも確実に、時とともに見た目も触感も味わい深くなる質感。それに、アウトドア・アクティビティ用にデザインされたピュアな天然繊維のウエアにはどこか詩的な美しさが宿っています。最終的にその寿命が尽きたとき、それは土に還り、別の何かを育む素になるのです。



-Photos from Rosendals Garden by Fredrik Ottoson
@fredrik_ottosson