Hiromi Nishinoiri

「シャモニーで経験した雪洞避難からの低体温症。それから山の中で一人でもビバークでき、帰ってこられるように道具や技術を身につけるようになりました」

Photo: Miho Furuse

西野入 洋良

Hiromi Nishinoiri

1982年、長野県生まれ。スロープスタイルのコンペ時代を経てバックカントリーに魅了される。2019年12月に「山あそびBONBORY」を立ち上げる。一児の母として、遊ぶ時間をうまく作って日々を大切に過ごしている。

-お気に入りのポック製品

「Fovea Mid Clarity」

現在使用しているモデル。大きなフレームで視界が広い。大きいからといって鼻の辺りはほとんど浮かないし、日本人の顔にもあっていると感じます。またフレームが柔らかく装着もしやすいです。


「Opsin Clarity」

フラットレンズで、球面タイプより厚みがないので、常に予備用のゴーグルとしてバックパックに入れています。場所をとらないし、球面より気を使わないで扱えるところがいい。クラシックなデザインも気に入ってます。


「Spektris Gold Lens」

曇天が多い信州の雪山では、明るめのレンズを常用しています。ミラーの中でも明るいタイプで、春山の快晴ってときでなければほぼこれ一つです。夕方であってもカバーでき、フラットライト時など凹凸の見えにくい状況の際も、このレンズなら安心して滑走に集中できます。また、耐擦傷処理をされているだけあって、ゴーグルの出し入れの多いバックカントリーで使用していても傷がつきにくく、雪山ヘビーユーザーでも嬉しい高性能レンズです。

-スノーボード以外に熱中していること

熱中とまではいかないけれど、読書が好きです。『アルケミスト』を友人から借りたことをきっかけにパウロ・コエーリョにはまり『星の巡礼』からサンチャゴ巡礼をすることに。その巡礼はわたしの人生の宝物です。

アメリカのジョンミューア・トレイルを歩いた時は、『ソローの森の生活』を選び毎日読んだページを焚き火で燃やしながら軽量化したり、『ベーリンジアのほとり』を読んで密かにあのエリアへ旅したいと憧れを抱いています。

こう思い返してみると、私の中では旅と本が深く交わっています。本はわたしにとって人生のヒントをくれる先生。友達でもあり恋人なのかな。

-1年間のライフサイクル

冬はスノーボード、春もスノーボード、夏は畑と水遊び、秋は登山とサーフィン。家ではお母さんの仕事。畑や実家の田んぼの手伝い。味噌作りから始まり梅干しや梅シロップ、いろいろな果実でジャム作り、野沢菜やたくあん漬け、要するにおばあちゃんがするようなことをやっています。2歳のおてんば娘と遊ぶのもとても楽しいです。

以前はクライミングやロングトレイルが好きで遠出していたけど、今は子どもが小さくあまり時間もとれないので、近隣の里山登山や家の前でサーフスケートやったり家族でサーフィン行ったりしています。



-この夏のベストメモリー

コロナ渦、体力維持のため一人で里山へ登りに行った際に、熊と出会ったこと。あっちから逃げていったから特にアクシデントはなし。その後、里山へ行く時はベアスプレーを持参するようにしています。

-育児と滑りの両立

どちらも無理しない。あわよくば両方できるように、どうにか抜け道ないか探っています。難しく考えないで、その時できることを楽しくやるだけです。山の花のように、置かれた環境でベストを尽くすといった感じ? その時々でバランスが変わってくるので柔軟な思考でいるっていうのも大切かなと思います。



-ホームマウンテンのこと

ホームマウンテンはなくて、ざっくりと北信エリア、小谷、白馬、妙高、野沢温泉あたりです。エリアによって雪質、雪の量、地形、植生、雰囲気、カルチャー、集まる人が違うので何をしたいかで行く場所を決めています。

白馬ならTHE DAYのどかーんと滑りたいときにアルパインへ。小谷はいい雪や静かな山を求めているとき、野沢温泉はパウダーと滑走量とゲレンデのバランスがいいし、妙高は地形に富んでいて遊びが面白い、ツリーランもGOODです。

どこも温泉が素晴らしくて、滑ったあとのほっこり癒しタイムは、私にとってなくてはならない存在です。温泉にゾッコン!

-もっとも印象深いライディング

ライディングとは少し違う話になってしまうかもしれませんが、ワーホリでフランスのシャモニーに滞在していたときのこと。現地で仲良くなったローカルスキーヤーに誘われBCへ行くことに。当時そこまでBCに詳しくなかった私は、とりあえず3種の神器と行動食しか持たない軽装で、地形図もなし。詳細なルートの把握もしないまま友達について行ってしまったのです。

時間も少し遅めの出発で、初めは天気がよかったものの徐々にガスに覆われ方向がわからなくなり、あれよあれよといううちに何とか知っている地点に戻ってくるも、すでに闇は間近に。あわてて雪洞を掘り、ザックをお尻の下に敷いて一晩をなんとか過ごすも、防寒着も余分な水分や行動食もなく、とてつもなく寒い中、やり場のない思いで過ごしました。

翌日、運良く快晴だったため無事に戻ることができたのですが、テレビをつけると日本が津波に襲われたとニュースになっていました。なんとその日は東日本大震災が起こった日。それもあって今でも忘れられません。身体は芯から冷えきってしまったようで、お風呂で温まっても何をしても寒いという感覚から逃れられず、1週間ずっと寒かったのを覚えています。あれは低体温症になっていたと思います。

金魚の糞のようにただ何もわからずついて行ってしまった自分に猛省。BCへ行く際はどんな状況だとしても、自立した考えを持ってやらないとダメなのだと。それからは、たとえ山の中で一人になったとしてもビバークでき、帰ってこられるように道具や技術を身につけるようになりました。

冬山は簡単に死ねますから、ひとりひとりが自分の責任の範囲の中で山に入る心構えをしたいものです。

-「山あそびBONBORY」のこと

長野県の北信越エリア、主に白馬にてグリーンシーズンは登山や森林浴、冬はスノーシュー・バックカントリーやスノーボードのレッスン、ゲレンデガイドをご案内しています。営業は平日のみ、1日1組限定なので要望をお聞きしつつ、ゆったりとしたオリジナルツアーを開催しています。

ボンボリーの由来は、小さなともしびでも誰かの役に立ちますように、という想いで名付けました。そして四季を通して自然との架け橋役になれたら嬉しいです。先シーズンはゲストの選んで来てくれた日がいつも当たり日(パウパウ)で、私自身も楽しませてもらった初年度でした。

-10年後のあなたは

変わらずスノーボードをしていたい。“1つのあそび”でなくてライフスタイルとして。30年後はあわよくば、ばぁちゃんになってもやり続け、孫と一緒にスノーボードがしたいです。


-Text by

西野入 洋良 / Hiromi Nishinoiri
@hirominishinoiri


山あそび Bonbory
@yamaasobi_bonbory
https://bonbory.com




-Cover & Portrait Photo by

古瀬 美穂 / Miho Furuse
@miho_furuse_photography
https://www.mihofuruse.com