Ryo Masumoto

– Episode 2 –

本当の幸せとはなにか
ミニマムでピュアな
増本夫妻のシンプルライフ




増本の住まいは、瑞牆山まで車で40分ほどの山梨県北杜市にある。小さな区画の別荘地内にある家は、かつて中古車を買うくらいの価格で購入したものだ。母屋には、遠く富士山を望めるウッドデッキと、山道具部屋兼木工作業小屋が据え付けられ、自家菜園のある庭の斜面には小さな鶏小屋が建てられている。

それらはすべて増本がハンドメイドで建てたものだ。それは到底「DIY」というレベルではなく、相当本格的な造作に思える。

「大工仕事は未経験だったのですが、人に頼めばお金も掛かるし、必要に迫られてです。今でもYouTubeを観ながらやってるようなレベルですし、材料もホームセンターで買ってます。プロのようにはいかないし、やはり時間も余計に掛かるから、業者に依頼して、その時間で別の仕事をしたほうがはるかに効率的です。鶏を飼うこともそうです。毎朝、卵を3つ産みます。新鮮な黄身と白身は弾力がぜんぜん違う。それでも餌代と手間を考えたら、店で買ってきたほうが安いかもしれません。でも、大工も鶏の世話も、その過程を楽しめるなら自分でやる価値があると思う。効率を求めて暮らしているわけではありませんしね」





クライミングが第一で、仕事は二の次という生活を貫いてきた増本は、今も定職に就くという選択肢がない。この春からは、近所にオープンしたクライミングジム『LOKU BOKU』を手伝うようになったが、そのほかはこれまで通り、富士山測候所のサポートやアウトドア専門学校と登山研修所の講師といった不定期の仕事を続けている。

「多くの収入は自分たちには必要ない」と増本は言う。それよりも大事なことは、「本当に必要なこと以外にはお金を使わないことだ」と。

6年前に結婚した増本が、今なお、クライミング中心の暮らしを貫いていられるのは、奥様のさやかさんもリアルなクライマーだからなのだろう。





クライミングという無償の行為に熱中することで、人生で一番大事なものや、本当の幸せの意味を心底理解してきた二人。そんな夫妻はミニマムだけど、ピュアでささやかな暮らしを実践している。ともすれば働く意味すら振り返ることもなく、雑多な毎日に流されがちな私たちとは真逆の、極めて豊かな人生の一例である。

「ひと月に何日も仕事がないのに、いったいどうやって暮らしているのか? とよく訊かれます。世間の人たちは、どこかに行ってお金を稼いでくるのが仕事だけど、僕たちの家庭では、仕事イコール、お金に結び付くことではありません。小屋を建てたり、鶏の世話をしたり、野菜を収穫するのも仕事。草刈りも仕事で、薪割りも仕事。だからいつも働いているし、ボーッとする暇がないくらいとても充実した毎日です」



昨年、増本夫妻に長女が誕生した。1LDK+ロフトという現在の住まいでは子育ても厳しいのではと思いきや、すでに新たな土地を超格安で入手し、例によってハンドメイドで家を建てる計画だという。それも幼い子どもの通学の便まで考えた場所を選んで、である。

選んだラインの妥当性を信じ、その先のリスクを頭に入れつつ、慎重かつ大胆にルートを延ばす。それは未知の大岩壁に挑んできたアルパインクライマー、増本亮がもっとも得意とする分野。そんな彼ら夫妻の第二章は、今、まさに始まっている。

 





– Product Review –

「Norrøna Shirt」

オーガニックコットンとリサイクルナイロンの混紡素材による肌触りの良いロングスリーブシャツ。日常生活のさまざまな動きの中でストレスがなく、毎日の作業でヘビーローテーションで着用してもよれないほどの高い耐久性があります。

Norrøna Shirt [M]





「Norrøna zip-off Pants」

リサイクルナイロン素材の速乾性に優れるパンツ。少しゆったりとしたリラックスフィットのため普段の着用にぴったりで、さらに裾にはジッパーがあり、生地に撥水加工が施されているため、そのままトレッキングに行くことも可能です。また膝上のジッパーを開いてショーツに変えられることで、肌寒い朝晩はロングパンツとして、暑い日中のキャンプや川遊びなどではショートパンツとしてさまざまなシーンに対応できる点がとても便利で重宝しています。

Norrøna zip-off Pants [M]






Ryo Masumoto
facebook @ryo.masumoto


-Photo by
Yosuke Kashiwakura
@yosuke_kashiwakura


-Text by
Chikara Terakura
instagram @c.terakura