Photography [Ken Fujikawa]

他の誰よりも滑っていた

僕は北海道に生まれ育ったが、他のプロスキーヤーたちのように幼少のころからスキーが上手かったわけではない。道産子のすべてがスキー上級者ではないように、僕も高校まではごく一般的な中級レベルのスキーヤーだった。いや、中級以下だったかもしれない。北海道といっても、いわゆる「地ガキ」のようにいつでもスキーができる環境ではなく、近くに山はなかった。いつでも滑れる環境を求め、高校の卒業式を待たずしてスキー場にこもり始めた。1年お金を貯めて翌年の夏からはNZでスキーシーズンを過ごし、1年中スキーができるよう、日本とNZのスキーシーズンを行き来する生活を始めた。子供の頃に満足にスキーをすることができなかった時間を埋めるように、ただひたすら、他の誰よりも滑っていた。13年間、夏を知らないままスキーに明け暮れ、ゲレンデも山も、スキーができればどこでも楽しかった。その間、アルペンから基礎スキー、モーグル、テレマーク、SKIMOと様々なスタイルのスキーに出会い、スキーの世界はさらに広がっていった。競技としてはテレマークのレースやSKIMOのレースでW-cupや世界選手権などのレースに参戦し、競技以外でも国内外の山々を滑ってきた。現在は札幌を拠点としてガイディングとレッスンをしながら、SKIMOでの海外遠征の資金を貯め、自分の限界を押し広げていくためのトレーニングに励んでいる。

長く使い続けているブランド

スキー中心の生活を送るなかで、自分の足りない技術を補うのはその時々の最適なアイテム。そんなアイテムは自分のスキースタイルの志向と共に変わってきたが、変わらずに一番長く使い続けているブランドがヘストラのグローブだ。20歳の時に初めてヘストラのグローブを手にし、それ以来何双のグローブを履きつぶしてきたか定かではない。いろいろなスタイルのスキーやアクティビティーにおいて、求められるグローブの機能やデザインは変わる。一つのグローブですべてをこなすよりも、その用途に合わせたグローブを選択することでパフォーマンスはさらに上がる。ヘストラには豊富なラインナップが展開されているが、どんなアクティビティーでも対応する最適のグローブがあるのが、ずっとヘストラを愛用し続けてきた理由だろう。

ERGO GRIP ACTIVE

最近のお気に入りは、32950 ERGO GRIP ACTIVE僕の活動のなかで最も使用頻度の高いグローブなので、その消耗は激しく、昨シーズンではこのERGO GRIP ACTIVEだけで2双履きつぶしている。擦り切れて穴が開いていても、まだ使いたくなるほどに調子がいい。その擦り切れた傷の分だけ僕の手を守ってきてくれた証だ。

スカルパのブーツ

ヘストラに次いで長く使用しているのがスカルパのブーツ。もう20年近くスカルパを愛用しているが、最初の出会いはテレマークブーツだった。テレマークの世界では圧倒的なシェアを誇るブランドだが、アウトドアシューズの専門ブランドとして様々なラインナップがある。ATブーツ、登山靴、クライミングシューズまで、おそろしく足にフィットしている。

SKIMOにおいても世界No.1のシェアだが、このカテゴリーのブーツは極限の軽さを追求しながらも高い滑走性能が求められる、少々特殊なスキーブーツ。フルカーボンブーツのエイリアン3.0は重量500gほどで、登山靴よりも軽いスキーブーツだが、その性能はただ軽いだけではない。こんな道具を使うことで初めて見えてくるスキーの世界がある。が、しかし・・SKIMOに真剣に取り組んでいる人にしか理解できないところが多いので、日本国内においてはその存在すらあまり知られていないのがちょっと残念。

レンズの重要性

スキーをするうえで、アイウエアも重要なアイテムの一つ。ゴーグルはただのファッションではない。そのゴーグル、特にレンズの重要性を強く認識したのはヒマラヤの高所での経験。標高6000mくらいの雪山では、空気の薄さに伴い紫外線も強くなる。その強い紫外線が目に与えるダメージは大きく、単純な色の濃さではないレンズの性能で違いがでてくる。日本の山の標高ではあまり感じられない差がはっきりと分かるのが高所での活動だ。そのような場所でも、POCのゴーグルは確かな視界を確保し、さまざまな障害から大事な目を守ってくれた。そんなPOCへの信頼は厚い。POCブランドが立ち上がった当初はモデル数も少なかったけれど、今ではかなりのモデルがラインナップされている。

基本的にはその日の天気に合ったレンズカラーのゴーグルを持っていくが、どれを使っても大丈夫だという絶対の安心感があるので、適当に手に取ったゴーグルを持っていくことも多い。そんな中でも、Retina Big Compは視界が極端に広いのでSKIMOのレースでもよく使っているお気に入り。

耐久性に優れるシェル

最近ではゲレンデでの使用率も増えてきたヘルメットだが、BCでもその重要性は変わらない。頭が守られているという絶対の安心感は、不必要な緊張を緩和し滑りに集中することができる。Auric Proは中の形状が横に広く、西洋人タイプの頭の形をしていない僕にもストレスなくフィットしてくれる。ベンチレーションやフィッティングのパッドなど、シンプルにできるところに無駄な便利機能を付け加えず、シェルの素材などの安全性に関わる部分はしっかりとした作りも良い。

藤川 健

Ken Fujikawa

 

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次回は、都会のモヤシっ子が失禁するような山奥の高所で活動し、日本のフリーライディングシーンをリードするアルパインウォーズマンこと渡邉 雄太。自身が手がけるカルチャーマガジン「IN DEEP」の発行などスノーボードを軸とした活動は多岐にわたる。出会いを交えて彼が使用する道具をご紹介します。